ガン保険が分からない

 アフラックだと思いますが、ガン保険のCMを流しています。CMの流れはこんな感じだったと思います。

 ある女の人がガンになる→治療にお金がかかる→現実を知った→しかしガン保険のおかげで保険金が下り、治療に専念できた→完治した→いまはガン保険を勧める仕事についている→ア〜フラック♪アメリカンファミリ〜♪

 このCMを見た時すごく不思議な感じがしたよ。なにが不思議かというと女の人の行動(保険セールスレディーになったという部分)が不思議だったのです。

ガンはお金で治るわけではない

 当然のことですが、ガンを治すのはお金ではありません。ガンを治すのは治療です。たとえば僕の祖父は胃がんで亡くなっていますが、ガンが発見された時点ですでに末期、打つ手がないほどにガンは進行していました。少しばかり生物学をやっている僕からみても治す手段はありませんでした。現存するすべての治療法、今はイマジネーションのなかのみにある実現性の高そうな未来の治療法をすべてひっくるめて考えても助ける方法はありませんでした。結局、行った治療は抗癌剤による少しの延命と、痛みのケアだけでした。祖父がこのような経過をたどったのは単純にお金がなかったからではありません。たとえ国家予算並みのお金があっても彼はほぼ同じときに亡くなったと思います。加えて彼は高校野球観戦とはぜ釣りが趣味でした。お金がいくらあっても体力的に趣味を謳歌することはできなかったでしょう。


 お金のいいところは存在し、価格のついているものは買えるということです。
 お金の限界は、存在しないもの、価格のついていないものは買えないということです。


 祖父が欲しかった「ガンの治療法」は残念ながら存在しないものだったので買えませんでした。なので多額の保険金も無意味です。ケアくらいのお金は最初からありました。
 ガン保険CMの女の人はたまたま早期ガンだったため「ガンの治療法」は存在し、買えるものだったのでしょう。だからお金で何とかなった。

ガン保険CMの女の人はどうすべきか

 僕の好きな建築家(デザイナー?思想家?)にgoogle:バックミンスター・フラーという人がいます。彼の著作『宇宙船地球号操作マニュアル』のなかにこんなような記述がありました(正確な記述ではないですし、出典も違うかもしれません。すみません)

 仮にあなたが船で難破して、海に放り出されてしまったとしよう。このままではすぐにあなたは溺れて死んでしまう。しかし幸運なのことにピアノの天板が流れて来て、あなたはそれにしがみつきなんとか溺れずに生き延びることができたとしよう。
 あなたの命はピアノの天板のおかげで助かった。
 しかし、この事実はピアノの天板が救命用具として適切であるということを証明するだろうか?

 もちろんピアノの天板は救命用具としてはまったく失格です。ピアノの天板で助かったのはまったくの偶然でしょうし、今後ピアノの天板が無線装置等をつけて救命装置として更なる進化を遂げることもないでしょう。しかし、助かったあなたは救命用具としてピアノの天板を売るかもしれません。自分が助かったという事実をそえて。

 ガン保険CMの女の人にもおなじことを僕は感じてしまったのです。たしかにお金は、ピアノの天板よりはずっと汎用性の高い装置です。しかしお金はピアノの天板とおなじように救命装置ではありません。ガン保険CMの女の人がお金で助かったのは発見が早かったという偶然です。
 僕が思うにガン保険CMの女の人は『保険セールスレディー』ではなく『ガン検診促進レディー』になるべきです。ガンの早期発見は確実にガン治療に効果を発揮します。しかも末期の高度医療に比べて桁違いに少ない金額で検診は受けられます。
 さらにアフラックも『ガン保険』だけではなく『ガン検診積み立て』も発売すべきだと思います(すでにあったらすみません)

 ようは『ピアノの天板』を作ったり、売ったりしないように気をつけて生きていきたいということです。救命装置なら最低レベルで救命ボートです。