チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ感想

 前回のエントリで『チェルノブイリとツバメの奇形についての論文』を読みました。

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 どうせなので感想を書こうと思います。

 最初に言っておきますと、僕は昔、植物の研究*1をしていただけで、動物のフィールド調査に詳しいわけではありません。また、今はまったく関係のない仕事をしていますし、これから書くことは的外れかもしれません。以下の文はたわごとと思って読んでください。


 著者らによると、どうやらこの論文は『野生動物で奇形が有意に増えた』最初の報告のようです。合計 7,700羽以上のツバメを捕まえて、外見を記録した情熱には感服しました。

 しかし、僕はこの論文のデータからは『放射線が奇形を誘発した』という結論を導き出せるかどうかわかりませんでした。

 理由は2つあります。

1.コントロールが適切なのかわからない

 
 論文ではチェルノブイリ産のツバメと、220 km離れた非汚染地域のツバメを比べて奇形率が上昇したと結論付けています。しかし論文中にもあるようにツバメは親と3kmしか離れていないところで繁殖するらしいので、もしかしたら地域ごとにまったく異なる特徴を持ったツバメが繁殖しているかもしれません。
 たとえばイヌ(Canis lupus familiaris)は同じ種でも地域ごとに非常に外見が異なります。日本で昔から飼われているイヌで、黒い斑点が見られたら『奇形』ですが、クロアチアのダルメシアン品種ならば普通のことです。

 もしかしたらチェルノブイリではもともと白い斑点が多いツバメが多く生息していたのかもしれません。
 何が『正常』かは普段がどうかにかかっています。

 このようなケースを検証するためには、事故前のチェルノブイリ産ツバメと事故後のチェルノブイリ産ツバメを比べる必要があります。対照群(コントロール)として適切なのは事故前のチェルノブイリ産ツバメであろうということです。他の地域のツバメでは地域性が出る可能性があります。

2.ツバメは人間との関わりが大きいのではないか?

 論文中に出てくるツバメは、学名から考えて日本にいるツバメと同じです。軒下に積極的に巣を作っているあのツバメです。英語でもBarn swallow *2というので、おそらく他の地域でもヒトと密接にかかわって生きていると考えられます。
 論文からはわからなかったのですが、おそらくチェルノブイリからは人が避難していると考えられます。それに対して、比較となる他の地域ではおそらく人が住んでいるはずです。
 人とともに生きていた生物が、あるときから急に人間なしの環境で生きることになったら相当ストレスがかかりそうです。人がいれば巣に近づかない野生動物が巣を壊しにきたり、屋根裏でぬくぬくできた越冬時期も自分たちで何とかしなくてはならなくなったり、苦労は多そうです。

 急に人がいなくなった町のイヌが、どんなことになるか考えればよいかと思います。

 以前のエントリ*3で書いたように、

放射能の影響がある』→『人が近づかない』→『ツバメに影響が出る』

ということが考えられます。
 ダム建設など、放射線以外の原因で急に人がいなくなった地域で、同様の現象が見られないか検証すべきかと思います。


 以上の2点から『放射線でツバメの奇形が増えた』とただちに言うのは弱いのではないかと感じました。
 以上が感想です。



関係ないですが、スマートフォン手品*4のネタばらし編はアップするのにもう少し時間がかかりそうです。どういう形式でエントリを書けばいいのか悩んでいます。

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*1:しかもモデル植物を使った生化学の研究

*2:直訳すると納屋ツバメ

*3:http://d.hatena.ne.jp/aljabaganna/20110327

*4:http://d.hatena.ne.jp/aljabaganna/20110409