チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ

以前書いたエントリ*1の、コメント欄で紹介してもらった論文を読んでみました。
紹介していただいたNNNさんありがとうございます。

Elevated frequency of abnormalities in barn swallows from Chernobyl. - PubMed - NCBI

無料で全文読めます。

いい時代ですね。

概要を以下に書きます。

まずはabstractの全訳から。

抜粋*2

 1986年に周辺国の広大な土地を放射能で汚染したチェルノブイリ事故が起こってからというもの、奇形や先天性欠損症が周辺のヒト集団に報告されるようになった。最近の調査によると奇形率の上昇は、(放射能の)影響を受けたとされるヒト集団の貧困やストレスが原因ではないかといわれている。
 そこで我々はチェルノブイリ周辺に住む野生のツバメ(Hirundo rustica)は汚染されていないウクライナの別の地域に生息するツバメや、そのほかの(汚染されていない)3地域に生息するツバメに比べて、11の形質について形態学的奇形の頻度が高いという結果を示す。これらの奇形ツバメは生存能力が低い。
 この発見は形態学的奇形と放射線との間に、貧困やストレスでは説明できない関係があることを証明している。この動物でもヒトでも同様に奇形が見られるという現象の説明として、最もひかえめな仮説は、これらが同じ原因で起こっている、つまりチェルノブイリ事故の放射線が原因だということだ。


では次に内容を見てみたいと思います。

内容

 まず奇形がみられた11の形質は以下の通り。
1.部分的な白斑(一部の羽毛が白化しており、羽が生えかわっても正常にはならない)
2.頭の羽色の異常
3.胸の色彩が赤くなる異常
4.顔の赤くあるべき部分が青くなる異常
5.足指の異常
6.くちばしの異常
7.まとまりのない尾羽*3
8.尾羽の湾曲
9.直径1cm以上の外見上あきらかな腫瘍
10.気嚢の奇形
11.まぶたの奇形(まぶたの一部が目の上にかぶさってしまっている)



図1ではこれらの異常の具体的な写真が載っています。


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1994720/figure/fig1/


(a) 通常の(奇形ではない)個体
(b)-(d) 部分的な白斑が見られる個体(上の1に該当する異常)
(e),(f) くちばしの奇形 (上の6に該当する異常)
(g)  気嚢の奇形(上の10に該当する異常)
(h),(i) 尾羽の湾曲(上の8に該当する異常)


 著者らはチェルノブイリ周辺と比較となるウクライナの非汚染地域*4でツバメを捕獲し、外見を記録しました。
 また同様の調査をスペイン、イタリア、デンマークでも行いチェルノブイリのツバメと比較を行いました。
その結果、チェルノブイリのツバメは、ウクライナ非汚染地域のツバメやその他3地域のツバメに比べて、上記のような奇形がより多く発生しているということが判明しました。具体的な調査結果を以下に示します。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1994720/bin/rsbl20070136s17.doc (ワード形式ファイルです)

 ツバメは親が生まれた地域から平均して3kmしか離れていない場所で繁殖することが知られており、チェルノブイリのツバメはチェルノブイリで生まれ育ったと考えられます。そのためチェルノブイリ産のツバメに異常が多く見られるということは、その土地に何か影響を及ぼす因子があると考えられます。
 この程度のツバメの異常は大したことはないと思われるかもしれません。しかし、ヒナ鳥に33.5 %みられる異常が、成鳥では17.8 %しか見られないことから、雛が成長する段階で死亡していると考えられるため、異常が生存率を低くしていると考えられます。

 このツバメの異常に関しては1990年から始まったウクライナの大規模な農業停滞も考えられますが、農業停滞は非汚染地域でも同じであるため真の原因であるとは考えにくいです。また、もしツバメの異常が農業の停滞に伴って起こるのであれば、年を経るごとに異常率が高まるはずですが、実際には白斑や他の異常は、年を経るごとに低下しています。それを図にしたのが図2です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1994720/figure/fig2/

このように年を経るごとにツバメの異常率が低下するのは、放射能の自然減衰が影響しているのではないかと考えられます。

さらにチェルノブイリと比較に用いたウクライナ非汚染地域は同じような田舎の農業地域であり、産業による化学汚染の可能性も排除できます。

以上のことから、チェルノブイリ産のツバメに見られる異常は、チェルノブイリ事故による放射性物質ではないかと考えられます。

*1:http://d.hatena.ne.jp/aljabaganna/20110327

*2:abstractの訳です

*3:尾羽が"燕尾服"のようにスッととがっていないみたいな感じかと思われます

*4:チェルノブイリから220km南東に位置する、チェルノブイリと似たような農業地区