英語記事、英語論文解説にはニーズがあるのか

 最近の僕のブログのコンテンツは、大まかに分けると以下の二つに分かれます。

1.アンドロイドアプリをつかった手品の公開、解説およびアプリ作成法の解説
 例:AppInventorでAndroid携帯向け手品アプリを作ってみた - 工作blog

2.放射線関連の論文紹介
 例:低線量被曝って危ないんじゃないの? - 工作blog


 そしてこの二つを比べると、圧倒的に2のほうがアクセス数が多いです。おそらくこれは2のほうが人気があり、ニーズがあるということです。



 しかしこれは考えてみると不思議です。



 なぜなら2はウェブ上に公開されている情報に下手な和訳とちょっとした解説をつけただけだからです。
 特に僕が何をしたというわけではありません。
 にもかかわらず人気があります。


 そこで思ったのが、もしかしたらウェブ上には『英語論文の解説をしてほしい』とか『英語記事の和訳をして紹介をしてほしい』というニーズがあるのではないかということです。たしかに和訳サービスは頼むと高いし、ウェブ上の自動翻訳ではわけの分からない訳文が出てきたりします。


 そこでためしに『英語論文・英語記事の解説サービス』をしたいと思います。
 
 サービス内容は簡単です。
 このエントリのコメント欄に『解説してほしい英語論文や英語記事』を書くと、解説文が出てくる"かもしれない"というサービスです。
 ウェブ上の機械翻訳に比べて、意味の通る訳文が出てくる可能性は高いと思います。ただデメリットとしてまったく訳文が出てこない、原文をえり好みするということもあげられます。
 さらに僕の実力では本当に解説できるかどうかわかりませんし、もしかしたらまったく役に立たないかもしれません。やる気が出ずにギブアップする可能性も高いです。『それでもいいよ!』という方はコメント欄に論文や記事の引用元を載せてもらいたいと思います。

 目的は何でもかまいません。
 『レポートで英語文献を示されたけど読む気がおきない』とか『重要そうな論文をソースで示されたけどよくわからない』とかで大丈夫です。というかそれくらい軽い気持ちのものでないと、僕も気軽にできません。僕も依頼があれば、一つか二つ気軽にやってみようかぐらいの感じです。お金がかかる話でもありませんので、気軽にお願いします。

 なお解説文はこのブログで公開させていただきたいと思います。そのため解説する英語論文、記事はウェブ上に公開されている文書に限定させていただきたいと思います。また僕は生物学関連の論文はそこそこ解説できるかもしれませんが、それ以外はあまり期待しないでください。
 
 最後に出来上がりの感じと僕が解説しやすい論文の傾向をつかんでもらうため、これまでの解説をいくつかリンクで貼っておきます。チェルノブイリ関連の論文ばかりですが別にチェルノブイリに詳しいわけでも、こだわりがあるわけでもありません。『家電の説明書訳して』とかでもまったくかまいません。

『本当にチェルノブイリのツバメは奇形になったの?』レターを読んだ - 工作blog
チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ - 工作blog
チェルノブイリ原発と植物の奇形に関する論文を読んだ - 工作blog

以上です。

【第二弾】【ネタばらし編】AppInventorでAndroid携帯向け手品アプリを作ってみた

 以前、アンドロイド携帯を使った手品の第二弾を公開しました。

【第二弾】Android携帯向け手品アプリを作ってみた - 工作blog


今回はそのネタばらしをしたいと思います。

以下の3つの動画をご覧ください。

今回のトリックのキモは、
1.『スペードの2』と『ダイヤの8』のカードの上下を1mmずつ切って短くし、カードをはじいたときにそこで止まるようにすること

2.アプリの『Scan』ボタンを2つに分けて2回繰り返して演じられるようにすること

かと思います。

以上です。


関連エントリ:AppInventorでAndroid携帯向け手品アプリを作ってみた - 工作blog

低線量被曝って危ないんじゃないの?

※20110725 『被爆』を『被曝』に訂正

 先日、話しをしていたらまた原発事故の話になりました。
 どうやらその方は低線量被曝のことを気にしてらっしゃるみたいで、

 『どんなに微量の放射線でも、浴び続けたら危ないんでしょう?』

 みたいな事をおっしゃっていました。
 
 どうやら、ひっくり返した砂時計みたいに、ゆっくりゆっくり放射線被曝量が累積していって、あるとき発ガンなり奇形誘発なりをするみたいなイメージをもたれているみたいです。


 このイメージは僕の個人的な直感からするとなんかヘンです。

 そこで論文をあさってみたところ、面白い論文を見つけました。チェルノブイリの『赤い森』*1でマウスをガンマ線被曝させた論文です。ちょうどよいのでこの論文の解説文を工作しようと思います。今回も無料で全文読める論文です。本当にいい時代ですね。


この論文の示すデータは大きく分けると以下の二つです。

 1.マウスに染色体にダメージがあるほどのガンマ線量を被曝させたが、ゆっくり被曝させた場合はまったく影響がない
 2.マウスに弱くガンマ線被曝させたあと、強いガンマ線被曝させると、強いガンマ線をいきなり被曝させた場合に比べてダメージが軽減される

『Radio-Adaptive Response to Environmental Exposures at Chernobyl』
(訳:チェルノブイリにおける環境放射線曝露への適応反応について)
Radio-Adaptive Response to Environmental Exposures at Chernobyl

 ではさっそく紹介します。いつも通りアブストラク*2の全訳から。

アブストラク

 環境中の放射線にさらされることで引き起こされる遺伝学的影響は、放射線管理政策の観点からも、放射線によって引き起こされるヒトへの健康影響を理解する観点からも重要な意義がある。本論文中で示す調査の主目的は、以下の二点を評価することである。
 1.放射線の被曝量と被曝する速度に応じて遺伝毒性がどのように変化するか。
 2.あらかじめ様々な強度の放射線あびると、(その後の放射線に対して)適応反応が起こるのかどうか。
調査の結果、(マウスに対して)ガンマ線10 cGy*3を亜急性被曝*4させても、染色体へのダメージはコントロールと見分けのつかないものであった(要はダメージが見られなかったということ)。また亜急性被曝させたマウスにたいして1.5 Gy*5ガンマ線を急速に照射したところ、すべての実験群において放射線適応反応が観察された。これはガンマ線をゆっくりと被曝することで、その後の急速なガンマ線被曝による遺伝的ダメージを減らせるということを示している。さらにこのことは、環境中のガンマ線にさらされることは、健康上有益な効果がある可能性と、『線形しきい値なし仮説』(LNT)がこのデータからは支持されない*6ということを示している。

用語解説

 今回の論文は若干なじみのない*7用語がありますので、その補足解説を先にしたいと思います。

【小核試験】
  今回の実験では放射線ガンマ線)が染色体(遺伝子)に与えるダメージをどのように検出するかが重要です。本論文ではマウスの赤血球を使って検出をしています。それがこの小核試験です。様々な物質の発ガン性を調べるときにも使われるようです*8。この小核試験は『赤血球には核がない』という性質に着目した染色体ダメージ検出方法です。原理は以下の通り。
 
1."何らかの原因"で骨髄細胞(赤血球の元になる細胞)の染色体にダメージが与えられ、染色体の一部がちぎれる。
2.骨髄細胞が赤血球に分化すると普通、核は細胞外に捨てられる。
3.しかしちぎれた染色体の一部は核として扱われないので細胞外に捨てられず細胞内に小核として残る。*9
4.そこで成熟した赤血球のうちどれだけの割合が小核を持っているかを数えると染色体へのダメージが定量できる。
  小核は正常な赤血球にはないため、小核を持つ赤血球の数が多いほどダメージが大きいと考えられる。*10
 今回の実験では"何らかの原因"がガンマ線に相当します。ガンマ線以外の条件はできるだけそろえているので、少なくともダメージの主因はガンマ線になるはずです。

【線形しきい値なし仮説(LNT)】
この用語はいい解説がネットにたくさんあります。
 参考リンク:2011-04-28
       :2011-04-01
今回の論文では『ガンマ線を浴びるのはどんなに少量であっても身体に悪い。安全な被曝量なんてない』という考え方だと思ってもらっていいと思います。

内容

本論文では、環境中にあるガンマ線の影響を調べるため、マウスをチェルノブイリの『赤い森』にある3地点を選んで置きました。(各地点にマウス10匹ずつ)
 この3地点はそれぞれ放射線強度が異なり、それぞれ10日間、20日間、45日間置いておくとマウスが10 cGy被曝するように選んであります。
 10日間で10 cGy被曝するということは、45日間で10 cGy被曝する地点よりも被曝するスピードが速いということです。
 ただ屋外ということもあり、実際にはぴったり10 cGy被曝ではありません。実際の被曝量は以下の表の通りです。
 また比較のため、研究室で急速に被曝させたグループもあります。
 

10d:10日間で10 cGy被曝させたグループ
20d:20日間で10 cGy被曝させたグループ
45d:45日間で10 cGy被曝させたグループ
Acute:急速(20分間程度)に10 cGy被曝させたグループ
1.5 Gy acute:急速(4.5 時間程度)に1.5 Gy(=150 cGy)被曝させたグループ

Expected dose rate :被曝速度の理論値
Expected total dose:総被曝量の理論値
Observed dose rate:実際に測定した被曝速度の値
Observed total dose:実際に測定した総被曝量の値

(ちなみにこのエントリの最初に載っている画像は被曝量測定のときに使った『パラフィン製のマウス模型(センサー入)』です)

さらにコントロール(対照群)をとるために、以下の図ような実験を組みました。

Control Group Laboratry : 実験室でマウスを飼いガンマ線にあてないグループ
"sham"Group Dose-sham : 『赤い森』で飼うマウスと同様の飼育条件で飼うが、ガンマ線はあてないグループ
10 cGy Prime Dose-field(SAP):『赤い森』に置き、それぞれ10日間、20日間、45日間かけて10 cGy被曝させたグループ。
10 cGy Prime Acute Dose-lab(AP):10 cGyを急速に被曝させたグループ。
1.5 Gy Acute Dose-lab(C):1.5 Gyを急速に被曝させたグループ。

なお矢印の途中にある『1.5 Gy "challenge"』は10 cGyを被曝させた後、さらに1.5 Gyのガンマ線を急速に被曝させたことを示しています。『1.5 Gy "sham"』はガンマ線照射装置にマウスを乗せたものの実際には照射していないグループ(対照群)です。

実験結果

では一つ目の実験結果です。

上に示した各グループから血液を採り、小核試験を行いました。
その結果が以下のグラフです。

Control:実験室で飼い、まったくガンマ線をあてなかったマウスのグループ
Sham:『赤い森』と同じ飼育条件で飼育したが、置いた場所は『赤い森』ではなく、ガンマ線は当たっていないグループ
10d:『赤い森』の中で10日間かけて10 cGy被曝させたグループ
20d:『赤い森』の中で20日間かけて10 cGy被曝させたグループ
45d:『赤い森』の中で45日間かけて10 cGy被曝させたグループ
Acute:急速(20分間程度)に10 cGy被曝させたグループ

 なお縦軸は小核が見られた(遺伝子が傷ついた赤血球)の割合です。

このグラフから、急速に10 cGyのガンマ線を被曝すると染色体(遺伝子)が傷つくことが分かります。
ただ興味深いことに、同じ10 cGyの被曝といっても長時間かけて浴びればまったく影響がないことを示しています。
また10 cGyを45日間かけて浴びた場合も、10日間かけて浴びた場合も違いはありません。



次に二つめの実験結果です。
こちらも各グループの小核試験結果です。

Control:実験室で飼い、まったくガンマ線をあてなかったマウスのグループ
Sham:『赤い森』と同じ飼育条件で飼育したが、置いた場所は『赤い森』ではなく、ガンマ線は当たっていないグループ
SAP:『赤い森』の中でマウスを飼育し10日間、20日間、45日間かけて10 cGy被曝させたグループの平均
AP:実験室で急速(20分間程度)に10 cGy被曝させたグループ
SAP-C:『赤い森』の中でマウスを飼育し10日間、20日間、45日間かけて10 cGy被曝させた後、24時間間をあけてから、さらに1.5 Gyのガンマ線を急速に被曝させたグループの平均
AP-C:実験室で急速(20分間程度)に10 cGy被曝させた後、24時間間をあけてから、さらに1.5 Gyのガンマ線を急速に被曝させたグループ
C:1.5 Gyのガンマ線を急速に被曝させたグループ

このグラフから1.5 Gyのガンマ線を被曝させたグループ(Cのグループ)は染色体(遺伝子)へのダメージが大きいことが分かります。
しかし事前に弱いガンマ線を被曝してから、強いガンマ線を被曝したグループ(SAP-C とAP-C)は、ただ1.5 Gyのガンマ線を被曝させたグループ(Cのグループ)に比べて染色体(遺伝子)へのダメージが少ないことが分かります。これは『事前に弱いガンマ線あびると、強いガンマ線に対して適応反応がおこる』ということを示していると考えられます。またこの適応反応は事前に急速にガンマ線を浴びたほう(SAP-CよりAP-Cのほう)が強いようです。

普通に考えると事前に弱く被曝させたグループは、ただ単に1.5 Gyのガンマ線を被曝させたグループより総被曝量は多くなります。しかし染色体へのダメージは総被曝量に比例しません。総被曝量から考えられる理論値と実際の測定値を比較した表が下の表です。

以上が実験結果です。

論文中の考察

 本論文の著者はディスカッションの中で、『なぜ有害な量のガンマ線であっても、ゆっくり被曝させればダメージが起きないか』について考察しています。
 遺伝子の発現を比較すると、ゆっくり被曝したグループは急速に被曝したグループに比べてSOD1という遺伝子の発現量が高くなることが分かりました。このSOD1という遺伝子はラジカル除去にかかわる酵素をコードしている遺伝子です。そのためガンマ線を浴びることで発生するラジカルを分解することで、そのダメージを防ぐのではないかという仮説が示されています。ただ急速に被曝させたグループではSOD1の発現量は上昇しないので、ガンマ線への適応反応には複数のメカニズムがあるのではないかとも述べています。
 またゆっくりと被曝すると影響がないことから、今回の結果からは『線形しきい値なし仮説(LNT)』が支持されないともいえます。

僕の感想

 被曝と一口に言っても、ゆっくり被曝するのと、急速に被曝するのでは影響が違うというところはとても納得できました。
 同じ『500 Jのエネルギーを受け取る』であっても『エアガンで350回撃たれる』*11というのと『ピストルの弾を一発撃ち込まれる』*12では意味が違います。
 ただこの論文では『この結果は低エネルギー放射線(ガンマ線)に限るものであり、高エネルギー放射線(アルファ線ベータ線)には適応できない』とも述べています。また『赤い森』に置かれたマウスは放射線で汚染されていない水と餌で飼われており、内部被曝は考慮されていません。そのため放射線一般に適応することはできません。

 とはいえ、『どんな微量の放射線であっても、どんどん累積する』という認識は間違っていそうです。
 要は放射線を気にしすぎないほうがよいのではないかということです。

関連エントリ
 チェルノブイリ原発と植物の奇形に関する論文を読んだ - 工作blog
チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ感想 - 工作blog
チェルノブイリでマウスを育てたら奇形になるの? - 工作blog
福島原発事故は『奇形』を発生させるか? - 工作blog

*1:チェルノブイリ事故のあった発電所近くにある放射線の強い森。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%84%E6%A3%AE

*2:論文をあまり読まれない方のために申し添えますと、このアブストラクトというものは論文全体の要約です。なのでここを読んで『あ、思ってたのと違う』と思ったら読まないほうが時間の節約になります

*3:10 センチグレイ = 100 ミリグレイ。おそらく今回は100ミリシーベルトと考えても大きく外れてはいないと思います

*4:弱めのガンマ線を照射して、比較的ゆっくり被曝させること

*5:1.5 グレイ = 1500 ミリグレイ。おなじく1500 ミリシーベルトと考えても大きくはずさないかと思います

*6:もっと言えば正しくない

*7:僕にとってなじみがないという意味です。おそらく一般的には有名な用語だと思います

*8:http://www.jisha.or.jp/jbrc/studies/knowhow/file06.html

*9:要はちぎれた染色体の一部には動原体がないため紡錘糸が結合できず核と同じ挙動ができないということ

*10:もちろん赤血球を数えるのは目視ではなくフローサイトメトリーです

*11:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%82%AC%E3%83%B3#.E8.A6.8F.E5.88.B6

*12:9 mmパラベラム弾 http://ja.wikipedia.org/wiki/9mm%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%BC%BE

【第二弾】AppInventorでAndroid携帯向け手品アプリを作ってみた

 以前のエントリでAppInventorを使ってAndroid携帯向けの手品アプリを作りました。


AppInventorでAndroid携帯向け手品アプリを作ってみた - 工作blog


 最近もう一つ思いついたので、作ってみました。

 ちなみに上のエントリで公開した手品のトリックカードはまだあまっていますので、『やってみたい!』という方はコメント欄にその旨をご記入ください。



 さて今回の手品ですが、またしてもカード当てです。ただ、
1.カメラ機能を使っている
2.トリックカードが必要ない
 という点が以前と違います。

 それではお楽しみください。

チェルノブイリでマウスを育てたら奇形になるの?

 当ブログではこれまでチェルノブイリと奇形についての記事をいくつか書いてきました。
 
チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ感想 - 工作blog

チェルノブイリ原発と植物の奇形に関する論文を読んだ - 工作blog

 紹介させていただいたこれらの記事は野生生物を対象としたフィールド調査であり、元実験生物屋の僕としてはあまりぴんときませんでした。

 フィールド調査ももちろん大切なのですが、元実験生物屋の僕から見るとチェルノブイリで奇形が発生するかどうかは、実験生物を使ってもっと厳密に比較したほうが手っ取り早いのではないかと感じました。
 そう思って文献を漁っていたところ、よさそうな記事を見つけました。
http://www.americanscientist.org/issues/feature/growing-up-with-chernobyl

http://www.groenerekenkamer.com/grkfiles/images/Chesser%20Baker%2006%20Chernobyl.pdf 全文のPDF 

特に以下の部分(Fig.5)が気になりました。

*1

Figure 5. Mice brought into the Red Forest from uncontaminated regions serve as experimental models to ascertain the effects of a radioactive environment. The animals are exposed to radioactive particles, primarily cesium-137 and strontium-90 (purple and yellow dots), in the contaminated forest from internal and external sources. Some of the ionizing radiation (gamma rays and beta particles) is not absorbed by the animal, and some of the particles are excreted. Each mouse wears a collar (photograph), which contains dosimeters that absorb radiation at the same rate as soft biological tissues. The collar provides an accurate measure of the radiation dose the animal receives from outside sources. Such experiments reveal that the mice appear unaffected by the residual radiation in the Chernobyl environment.

(訳)図5 放射線が存在する環境下で生物にどのような影響が出るのかを調査するため、実験モデルとしてマウスを非汚染地域から『赤い森』(チェルノブイリ放射能汚染地域)につれていった。連れて行ったマウスは『赤い森』の中に置かれることでセシウム137とストロンチウム90(紫色と黄色の点で表示)にさらされ、内部からも外部からも被曝した。ガンマ線ベータ線といった一部の電離放射線は動物に吸収されることなく、また一部の放射能は排泄された。マウスはそれぞれ、動物の柔組織と同じように放射線を吸収する線量計を搭載した『首輪』をつけている(写真)。この首輪はマウスがどれだけ外部からの放射線に曝されたかを正確に計測するものである。この実験から明らかになったことは、マウスがチェルノブイリの残存放射能にまったく影響されないということであった。

 どうやらチェルノブイリにマウスを連れて行って、マウスに奇形やそのほかの異常が見られないか観察したようです。
 残念ながら、この記事自体が回顧録みたいな記事なので詳しい実験条件が載っていません。なのでなんともいえないのですが、どうやら実験動物をチェルノブイリに連れて行って正常な個体群と比較しても奇形や異常は出ないようです。ちゃんと(?)マウスは内部被曝外部被曝もしているはずなのにです。
 他にもこの著者は、遺伝子に突然変異が起こると青色の蛍光を発する遺伝子組換マウス(Big Blue 遺伝子組換マウス)を連れて行って実験したり、汚染地域と非汚染地域の動物を比較したりしたようですが、結局違いはでなかったようです。

 この記事を読む限り、チェルノブイリ放射能による奇形発生率上昇を証明するのは難しそうに感じました。
 個人的にはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana シロイヌナズナ - Wikipedia)のようなモデル植物で同じような実験をしてもらいたいところです。

 ちなみにこの記事の著者は、『チェルノブイリのハタネズミに突然変異率の上昇が見られる』という論文を1996年にNature誌に投稿しているのですが、その後の追試で
その結果が間違いだったことが分かったため、自らその論文を撤回したようです*2。せっかくNature誌に載ったのに自ら撤回するとは、恐るべき真摯さだと思います。『どうせそのうちチェルノブイリで突然変異率の上昇が証明されるから、撤回する必要ないんじゃない?』みたいな意見も『今後の実験にバイアスが出るから撤回すべきだ』といってはねのけたみたいです。う〜ん。見上げた科学者魂です。科学者かくあるべし。

 そのせいかは知りませんが、『チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ - 工作blog』の著者を批判しています。*3
 まあ分からなくもないです。

 なお記事中の『教訓』がとても格好良いのでそこだけはメモ代わりに書いておきます。

 教訓1:美しい理論はしばしば醜い事実によってくつがえされる
 教訓2:真の進歩には方向転換も必要
 教訓3:歴史を忘れるな
 教訓4:謙虚さを持つことは賢い行いである
 教訓5:科学者が従うべきもの『事実』
 教訓6:ものすごい結果を証明するには、ものすごい証拠がいる
 教訓7:すばらしいアイデアがすばらしい予算をつけてもらえるとは限らない
 教訓8:人気が凋落したり、不快な目にあうことを覚悟せよ

以上です。

*1:http://www.americanscientist.org/include/popup_fullImage.aspx?key=igioYVZOX7N7M9VCAjuUTuOm8IOPKgCE より転載

*2:間違いの原因は論文投稿当時のDNAシーケンシングを手動で行ったため。追試でオートメーション化したシーケンシングを行ったところ、コントロールと違いがないことが判明

*3:教訓 6『ものすごい結果を証明するには、ものすごい証拠がいる』 の部分

チェルノブイリ原発と植物の奇形に関する論文を読んだ

 以前、チェルノブイリとツバメの奇形に関するエントリを書きました。

チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ感想 - 工作blog

このコメント欄に論文が挙げられていましたので、読んで感想を述べたいと思います。

 >magさま
 国会図書館に行けば論文を手に入れられることがわかりました。あまり注目されていない論文とのことなので、差し出がましいようですが紹介させていただきます。

 今回読んだ論文はこちらです。
論文題名『Developmental Instability of Plants and Radiation from Chernobyl』
Developmental Instability of Plants and Radiation from Chernobyl on JSTOR

この論文の著者は上に挙げたツバメの論文と同じ著者です。

まずはアブストラクトの全訳から紹介します。

抜粋

 ウクライナでは『チェルノブイリから放出された放射線が直接的に植物の成長に影響を与えている』という仮説を評価するために、成長不安定性*1に焦点を当てた表現形測定*2が行われてきた。本研究ではチェルノブイリのセキュリティゾーンから、南東方向のほぼ放射能汚染がない地域にいたる225kmの地帯を調査し、三種類の植物*3の対称性の乱れと表現型の逸脱(奇形)を測定した。成長不安定性はチェルノブイリからの距離が離れるにつれて減少し、非汚染地域(コントロール)と比較して3倍から4倍の差があった。これらの傾向は3種類の植物で同様だった。また、この成長不安定性は、調査した地帯のセシウム137由来放射線レベルと正の相関があった。結論として、チェルノブイリ由来の放射線が、植物の正常な成長を阻害したということがいえる。

導入

 環境の変化に敏感に反応する植物の形質*4として、葉や花などの対称性があげられます。
 なぜなら普通、自然界で生物に奇形が現れると、その個体の適応度が下がってしまうため観察できないことが多いですが*5、植物の葉や花の対称性といった形質は、おそらくそこまで適応度を下げないため自然界でも観察できるだろうと考えられるためです。そこで本研究では、ニセアカシア、オウシュウナナカマド、イヌカミツレの葉や花の対称性を調査し、対称性の乱れが放射性物質であるセシウム137の量と相関があることを示したいと思います。

材料と方法

 ニセアカシアの調査方法


*6
ニセアカシアの葉は写真のように向かい合わせに小葉がついています。*7

この小葉の付け根はだいたい同じ位置にあります。そこで、この向かい合った小葉の付け根の間がどれだけ離れているかで非対称性を評価しました。付け根の間隔が広いほど非対称であるということです。地点ごとに樹高1m〜5mのニセアカシア20本を選んで1本の木につき5枚ずつ葉を評価しました。総計260本、1300枚の葉を調査しました(一地点につき100枚の葉を評価。13地点のサンプリングを行った)。

※オウシュウナナカマドとイヌカミツレの調査方法も似ているので割愛します。
 ただイヌカミツレは葉ではなく花の調査を行っています。

結果と考察

 (※本論文ではここで2種類のグラフが挙げられているのですが、ウェブ上で公開されていないデータをスキャンしてこのブログに載せるのは、引用元を明示したとしても気がひけるためやめます。)
 
 調査した植物の葉と花の非対称性(長さ:mm)をチェルノブイリ原発からの距離を横軸にとってプロットしたところ、チェルノブイリ原発からの距離が離れるほど、非対称性がなくなることが判明しました。(これが一つ目のグラフ)これは調査した3種類の植物で同様の傾向でした。
 また横軸にセシウム137由来放射線量(Ci/km^2)をプロットしたところ、放射線量が増えるにしたがって非対称性も増すことが判明しました。これも調査した3種類の植物で同様の傾向でした。(これが二つ目のグラフ)
 以上のことから植物の変異(奇形)はチェルノブイリ原発からの距離に強い相関があり、セシウム137由来放射線とも強い相関があると結論付けることができます。

論文を読んだ僕の感想

 結論からいうと、『この論文の結果からはチェルノブイリ原発事故と植物の奇形の関連に関して何もいえないのではないか』と感じました。なぜそう感じたのかを3点挙げたいと思います。

 1.コントロール(対照群)が必要なのではないか?
 この論文ではチェルノブイリ原発からの距離によって対称性の乱れ(奇形)が増えたといっています。しかし調査はチェルノブイリから南東方向への一地帯しか行っていません。もしこの奇形率の上昇がチェルノブイリ事故由来であると主張するのであれば、今回の調査と同じような気候、土壌、植生の地域で、放射能の影響が無い地域を調査し、奇形率が特定の傾向を示さないか調べる必要があると考えられます。というのも生物の対称性は環境に影響されやすいからです。論文中にもふれられていますが、生育温度が高いだけでショウジョウバエの奇形率は上がるようです。ということはもしかしたらこの植物の奇形率の上昇も、単純に生育温度が高いと出るものであるかもしれません。植物は接触刺激によっても生育が変わりますから、もしかしたら風が影響しているかもしれません。とにかく放射能の影響が無視できる地帯で同様の調査を行い比較することが必要だと思います。そうでないと『植物は気温が変わると奇形率が上がる』がたまたま放射能の分布と一致しただけということにもなりかねません。

 2.調査地域の選び方が不適切なのではないか?
 上でも述べましたが今回の調査ではチェルノブイリ原発から南東方向への一地帯しか調査していません。もしチェルノブイリ原発からの距離によって奇形率が上昇するというのであれば、他の方向へも調査すべきです。3方向かそれ以上調査を行って、それでも原発からの距離に比例した奇形率の上昇が見られたら信憑性のある程度高い結果であると思います。しかし一方向だけでは信憑性が低いといわざるをえません。とくにチェルノブイリ原発事故のように、事故後のチリが主に西方向と北北西方向に運ばれたことがわかっている*8場合には、その方向の調査を行う必要があると思います。一方向だけなので、結果が出た方向だけを恣意的に選んで公開したのではないかと勘ぐってしまいました。
 また『225キロに及ぶ範囲』を調査したといっても、グラフを見る限り調査を行った地域は、チェルノブイリ原発から50km〜75kmくらいのところにかたまっています(13地点中10点がこの範囲)。以前紹介したツバメの論文同様、詳しい調査地点は明らかにされていないのでなんともいえませんが、なぜこの地点を選んだのかくらいは示してほしいところです。

 3.調査する植物が不適切なのではないか?
 今回調査されている植物ですが、なぜこの3種類の植物が調査対象なのかがわかりませんでした。とくになぜニセアカシアを選んだのかがわかりませんでした。
 というのもニセアカシアは根萌芽する樹種だからです。簡単にいうと竹と同じように横に伸ばした根から芽を出して成長することができるのです*9。水平根は60m以上のびることもあるようですので、調査地点にあるニセアカシアはすべて根がつながった同一個体である可能性があります。そのため地上の見た目で20本の木を選んだとしても、結果的には1個体のニセアカシアを調査したに過ぎないかもしれません。そうなると統計的には意味をなしません。個体差なんじゃないかという話です。このようなことを避けるには、葉を採って遺伝子解析し、別個体であること確認する必要があります。そんなことするくらいなら別の植物調べたほうがいいんじゃないのかな?という感じです。
 対称性というならほぼすべての植物がどこかしらに持っているものです。葉の鋸歯*10や葉脈を調査するという方法であれば、羽状複葉の植物でなくとも調査はできます。少なくともニセアカシア以外にも植物はあったのではないかと思います*11
 植物は『動かない動物』ではありません。独自の生態をもつ生物です。ツバメであれば、ある地点に営巣する個体がすべてクローンであるということはほとんど考えられませんが、植物ではありうることです。ツバメの行動学者である著者がその点を考慮したのかが気になります。

 他にもなんでセシウムだけに着目して、総放射線量に着目しないのかなど色々ありますが、全体を通していえることは、『少ないデータから大きな結論を導き出しすぎている』ように感じたということです。
 以上がぼくの感想です。
 
チェルノブイリでマウスを育てたら奇形になるの? - 工作blog

*1:正常ではない成長。いわゆる奇形

*2:ここでは植物の見た目の評価くらいの意味だと思います

*3:ニセアカシア(Robinia pseudoacacia - Wikipedia)、オウシュウナナカマド(http://sigesplants.chicappa.jp/Sorbus_aucuparia-1.html)、イヌカミツレ(http://bluelist.ies.hro.or.jp/db/detail.php?k=08&cd=448

*4:ここでは見た目だと思ってください

*5:論文中に挙げられてはいませんが、たとえば二つの頭を持った魚が生まれたとしても、おそらく二つ頭の魚は泳ぎが遅いため真っ先に食べられてしまい、実際に生まれていたとしても見つからないだろうみたいなことです。

*6:http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/profile/005594.html より転載

*7:正確に言うとこの写真に写っているものすべてで一枚の葉です。一枚の葉が複数の向かい合わせた小葉と先端の小葉一枚からできているため奇数羽状複葉といいます

*8:http://www.groenerekenkamer.com/grkfiles/images/Chesser%20Baker%2006%20Chernobyl.pdf

*9:https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/handle/2324/10858

*10:http://okayama.cool.ne.jp/kanon1001/yougo/kyosi/kyosi00.htm

*11:調査地域に3種類しか植物が無かったとは考えにくいです

『本当にチェルノブイリのツバメは奇形になったの?』レターを読んだ。

 以前、チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を紹介しました。

 チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ - 工作blog
チェルノブイリとツバメの奇形についての論文を読んだ感想 - 工作blog

 A.P Møllerさんという方の研究で、ものすごく大雑把に言うと『チェルノブイリのツバメは、ウクライナのきれいな地域に住んでるツバメに比べて奇形が多いよ。きっと放射能の影響で奇形が多いんだろう』という内容です。


PubMedを漁っていたところ、この論文に対する反論っぽいレターを見つけましたのでご紹介したいと思います。


Is Chernobyl radiation really causing negative individual and population-level effects on barn swallows?

無料で全文読めます。
やはり全文読めると紹介しやすいですね。
以下に内容を紹介します。

概要

 Møller氏らは『チェルノブイリのツバメは、ウクライナ非汚染地域や他のヨーロッパ非汚染地域に住んでるツバメに比べて奇形が多い。それは放射能の影響で奇形が多いためであると考えられる』と結論付けているが、私はMøller氏らが以下の二点を軽視しすぎていると思う。


 1.チェルノブイリ事故とそれに伴う土地放棄の影響
 2.放射線量測定と『チェルノブイリ』という調査地域のくくり方


具体的にどういうことなのかを以下に5点述べたい。

1.チェルノブイリ事故後、30km圏内は避難対象地区とされ土地、建物などすべてが放棄された。かつての農地はいまや荒れ地か森である。林業は中止され、密猟を除けばハンティングも厳密に制限されている。このような状況のため1989年からは大型哺乳類(オオジカ、イノシシ、オオカミ)や希少な鳥類(黒コウノトリ、ワシ)が30km圏内で個体数を増やしていることが判明している。反面、鳥類の個体数減少は人間の生活習慣と深くかかわっていることが報告されている。ツバメは人間と関わりが深く、その個体数が農業に影響されることがMøller氏によって報告されている。

2.Møller氏らは『ウクライナの農業衰退はチェルノブイリでも(比較に使った)非汚染地域でも同じだ』と述べているが、チェルノブイリの30km圏内が完全放棄されている以上、その周囲の農業慣行や野生生物の生態が、非汚染地域と同じであるとは到底いえない。

3.放射線量測定の結果が示されていない。たとえば『チェルノブイリ』と一口にいっても放射線量にはばらつきがあり、もっとも強い地域ともっとも弱い地域では約100倍の差がある。Møller氏らこれらを考慮せず『チェルノブイリ』とひとくくりにしているため、統計的処理に適さないのではないか。

4.また1991年から2006年の変異率を測ったとすると、その期間中に放射線量は二分の一に減衰していると考えられる。つまりチェルノブイリの最も汚染された地域では60μGy/hだった放射線量が30μGy/hに減衰し、最も汚染されていなかった地域では0.6μGy/hだった放射線量が0.3μGy/hに減衰したということだ。もし論文中に述べられているように変異率が放射線量に敏感に反応するのであれば、(『チェルノブイリ』のサンプリング地点間での違いのほうがより大きいと考えられるため)『チェルノブイリ』とひとくくりにするのは不適ではないか。

5.サンプリングを行った具体的な地域がほとんど公開されていない。さらに1991年〜2004年の調査でチェルノブイリのサンプリング場所が変わっているので経時的な比較ができない。たとえば1996年にサンプリングを行ったチェルノブイリの6地点は、2000年から2004年の間には再サンプリングされていない。


以上のことから、『放射線が鳥類に悪影響を及ぼした』と早急に結論付けることはできないと考えられる。ただ『ヒトが土地を放棄するとツバメに影響がある』ということはかなり確からしいと考えられる。
 今後も研究は継続されるべきだが、より強固な証拠に基づいた検証がなされるべきである。


以上が概要です。

感想

 『フィールド調査は難しそうだ』というのが正直なところです。
 僕のような(元)実験屋から見ると、5で指摘されているサンプリングの変更はデータ改ざんといってもいいくらい重要なことだと思いますが、フィールド調査だとツバメが捕まらなかったり、調査に行く予算がなかったりしたのかな、という気がしないでもないです。
 チェルノブイリで奇形が誘発されているかはまだまだ議論の余地があると思いますが、逆にこれは『チェルノブイリは誰が見ても明らかに奇形が増えている状態』ではないということをしめしているようにも思えます。

>magさん
コメントをありがとうございます。今回、コメント中にありました『Developmental Instability of Plants and Radiation from Chernobyl (1998)』を紹介させていただこうかとも考えましたが、無料全文公開されていなかったので断念いたしました。大学を離れると論文一つ手に入れるのも手間がかかって悲しいです。

チェルノブイリでマウスを育てたら奇形になるの? - 工作blog