『排出権サミット』

 前回のエントリーはあまり工作っぽくなかったので、今回はショートショートを書きました。


『排出権サミット』

 やわらかな光が差し込む会場が一瞬ざわついた。

 くつろいでいたレポーターたちも臨戦態勢に入る。

 『えー、いまから会見が開かれるもようです。排出権問題会場となるオーストラリアから中継しています。あ、はじまりました』

厳しい雰囲気の中会見ははじまった。

 『お集まりいただきありがとうございます。今回で3回目となる排出権サミットの総括を行わせていただきます』

先進勢力出身議長の面持ちは若干固い。

『結論から言わせていただくと、排出権の取り扱いについて今回のサミットでは合意が得られませんでした。

 非常に残念な結果です。

 しかし、全く成果がなかったというわけではありません。排出をこのまま続ければ環境は激変してしまう。その事については合意に達しました。この問題はいまや地球上全ての生物の問題であります。その事については異論ありません。

 合意が得られないのはガスの排出量問題です。

 いまのところ高い生産量を得ようと思うと大量にガスを排出しなければいけない。もちろん効率を高めれば良いという意見はありますが、てっとりばやく生産量を上げたいという意見は根強く、排出量は譲れないという意見が新興勢力から聞かれます。
 もちろん新興勢力とてガスの排出を続ければ自分の首を絞めるということもわかっています。たとえ彼らが我々より排出ガスに対して強いとはいえ、限度はあります。が、同時に生産量の低下も彼らの首を絞める。
 
 必要なのは双方の歩み寄りです。どちらか一方的に妥協して終わるということはありえません。

 今後は粘り強い交渉を通じて、ガスの総排出量の抑制と公平な成長を両立させたいと考えております。会見は以上。』

簡潔に会見は終了した。やはり合意は難しいらしい。

レポーターにカメラが切り替わる。

『今、会見が終わりました。残念ながらどうやら今回も合意には至りませんでした。

 排出権問題は新興勢力であるラン藻と先進勢力である嫌気性生物連合間の綱引きといった情勢です。以上『酸素ガス排出権サミット』の海中会見場からお伝えしました』