『笑いをとる能力=クジャクの尾羽』仮説

 笑いを取る能力というのは人間の間でしか役に立ちません。例えばライオンの爪や牙といった攻撃能力は生物種を超えて有効です。ライオンと対峙したヒトもガゼルも等しくライオンの攻撃を受けます。ライオンはこの攻撃能力を使ってえさを穫ったり、自己防衛を行ったりできます。ですからライオンの攻撃能力はライオンの生存にとって役に立つといえるでしょう。
 しかし笑いを取る能力は違います。残念ながらライオンに対して笑いをとり、攻撃の手を緩めてもらう事はできないでしょう。もちろん笑いを取ってえさを狩る事もできません。笑いを取る能力は本来生存の役には立たないはずなのです。
 しかし、笑いを取るという能力はヒトの間で広く見られます。それどころか笑いを取るとモテるような現象まで見られます*1。なぜなのでしょうか。

 考えた結果、

1.特定の種内でしか意味を持たない
2.セックスアピールに関与する

ということから『クジャクの尾羽』が思い浮かびました。

 クジャクの尾羽は雄のクジャクにのみ見られるきれいな飾り羽です。クジャクの雄はこの飾り羽をアピールする事でメスに対して求愛行動を行います。ここで重要なのは、このセックスアピールはクジャクの雌に対してのみ有効だという事です。この求愛行動を見た女性が『なんて素敵な雄なの!』といったとしたらそれはクジャクの羽でドレスを作りたいからであって、クジャクの雄を繁殖相手に選んだからではありません。
 しかしクジャクの雌にとって雄の尾羽は情報の宝庫です。尾羽の色、つや、模様の対称性などの情報は、雄の捕食能力の高さ*2や、免疫系の強さ*3などを表しています。そこで雌は羽の美しさから雄の能力全般を推定し、繁殖相手として適切であるか判断します。

 笑いを取る能力についても同じ事がいえるのではないでしょうか?おそらく笑いをとる能力は以下の3つの能力を表しています*4

1.パターン認識能力

2.記憶力

3.瞬発的応用力

 これら3つの能力は、知的生産が主になる社会において非常に重要な能力であると考えられます。言い換えればこれらの能力は現代における捕食能力そのものであるといえるでしょう。よってこれらの能力を間接的に表す『笑いをとる能力』はセックスアピールとして十分通用すると考えられます。

 では具体的にどのような笑いの側面が各能力を示しているのでしょうか?例を交えて見てみたいと思います*5


例:合コンで女の子が一人遅れて来た状況。話によるとその女の子は遅刻の常習犯。

女『ごめーん。待った?間違えて隣の店に入っちゃってて、遅れちゃった。うっかりだよね〜』

男『あーそうなんだ。もしかしてワケギとわき毛を間違えて料理に入れちゃうタイプ?』

(周りの人間が笑う)

女『そんな事ないよ!』

男『だよね。ごめんごめん。まだはじまったばっかりだから大丈夫だよ』

席に刺身が運ばれてくる。

女『お刺身だ。遅れてきちゃったし私がお醤油いれるね。お皿貸して。あ、間違えちゃった。お醤油じゃなくてソース入れちゃった!』

男『ドンマイドンマイ。間違えて料理にわき毛入れちゃうよりはずっといいよ』

(周りの人間が笑う)

女『だから、わき毛は関係ないって!』

男『ソーっスね。ソースなだけに』

女『・・・(うわっ。さむっ)』

男『いや〜オレ今、華麗にすべったね。これだけスベれるならオリンピックスノーボードの青森予選くらいなら突破できる勢いだよ。まじで』

女『なにそれ〜』
(女が笑う)


 この例の男に注目してください。最初、男は女が遅刻常習犯である事と発言内容から『ありえない間違い』というパターンを抽出しています(1.パターン認識能力)。そして抽出したパターンを自分なりに応用し、ワケギとわき毛の誤認という同じくらい『ありえない間違い』とたとえ、重ね合わせて提示しています(3.瞬発的応用力)。

 つぎに女が醤油とソースを間違えた際には先ほどのパターンを記憶していて(2.記憶力)、再度提示しています。笑いにおけるいわゆる『天丼』は主にこの記憶力を表しているものと考えられます。

 つぎに男はいわゆるおやじギャグを発してひんしゅくを買っています。おやじギャグは大抵の場合受けが良くありません。それは日本語には同音異義語が多く、おやじギャグは簡単に作る事ができるからです。
 つまり日本語で二つの同音異義語間パターンを発見しても難易度が低すぎるため、能力の証にならないのです。ただしより複雑なパターン(3語間以上のパターン)の提示はラップにおける韻のようになり、能力の証となる可能性があります*6

 しかし、男はその後自分を客観視し*7『スベっている』という現状を認識した上で新たな『滑り』というパターンを認識し、スノーボードのたとえにつなげています。

 この例からも『笑いをとる能力』は知的能力と深く関わっていると感じられないでしょうか?いわゆる『一発ギャグ』ですらこの範疇に入ります。一発ギャグを成功させるには、常に状況を把握しそのギャグがはまる一瞬に滑り込む必要があります。パターン認識能力と瞬発力がなければできない芸当です。

 ようは笑いをとる能力は、クジャクの尾羽のように生存に必要ではない特殊化した能力であるということです。そしてその能力のキモは、『自己の知的能力を効果的にアピールすること』であるといえます。さらに能力を発揮する際には1.パターン認識能力 2.記憶力 3.瞬発的応用力の3点を意識することが重要であると考えられます。

最後に

 今回は笑いを分析してしまったのでこのジョークを書いておかないといけません。

『笑いの分析はカエルの解剖のようなものだ。ほとんどの人は興味を持たないし、そのためにカエルは死ぬ』

 『カエル』のご冥福を祈ります。

*1:あくまで主観的なものです。ただかなりの確率で笑いを取れる人間(とくに男)がモテます。

*2:栄養が足りないと美しい羽にならない

*3:病気だと美しい羽にならない

*4:これで全部かどうかは分かりません

*5:以下に出てくる例がおもしろくないとしてもおもしろいものとして考えていただけるとありがたいです

*6:サントリーにエントリーしたのがおれヒトリーでビックリーしちゃったよ』というギャグのほうがまだましくらいの感じです

*7:自己を客観視できるということはつねに自己の中に『メタ自己』視点を持っているということを意味します。これは常にシステムを2つ走らせていることを意味し、自己を客観しできないヒトに比べて能力の高さを証明します。