「あーもう。めんどくせー。ファッションとか考え出した奴マジ何なんだよ。服なんか着られりゃ十分だろ!なんだよセンスって」

「もう。そんな事言わないの。せっかくの結婚式じゃない。新郎は親友なんでしょ?失礼にならないようにそれなりに着飾らないと」


「あいつの結婚式なんだから適当でいいんだよ。二次会で服装自由なんだし着たいもの着りゃいいんだよ」

「そうはいかないわ。服装は言葉なのよ。あなたは服装で自分を表現することになるの。好むと好まざるにかかわらずね。たとえばそのボタンダウンのシャツ。どんな意味だか分かる?」

「え、このシャツ、ボタンダウンって言うのか?普通のシャツのえり先がボタンで留まってるだけだろ?意味なんてないさ」

「そう思うかもしれないけどちゃんと意味があるの。もともとボタンダウンシャツはポロの試合の時、えりがはためいて顔に当たるのを防ぐためにえり先を留めたのが発祥なの。だからフォーマルなものじゃなくてスポーツマンのための服なのね。だからそのシャツは『活動』っていう意味を持つわ。じゃあ次。そのジーンズの意味は分かる?」

ジーンズはジーンズだろ。俺のおしゃれアイテムだ。高かったんだぞ」

「え、それ高いの?そうは見えないけど。まあいいわ。ジーンズはもともと作業着よ。アメリカがゴールドラッシュだった時に頑丈な帆布をぬ縫って作業着にしたのがはじまり。だからジーンズの意味は『夢を追う』とか『反逆』とかの意味よ。だからボタンダウンシャツっていう単語とジーンズって単語を合わせると『自分の力で夢を追っている』っていうくらいの意味になるわ」

「そう…なのか?まあそんな気がしなくもないが…」

「そうなの!服にはそれぞれ固有の意味があるの。Tシャツもブラウスもスカートも意味を持っていて『単語』としてふるまうわ。だから服を着る人は誰でもこの『単語』を組み合わせて場に合った『文章』を作らないといけないの。いわゆるコーディネートってやつね」

「でもまあコーディネートなんて適当だろ?それにほら、俺センスあるし」

「まったく・・・。『センス』っていうのは服っていう単語が持つ意味を組み合わせておもしろい文章を作る力の事なの。たとえば中東の男の人がスーツをバシッと着こなしているのに頭にはターバンを巻いているところを想像してみて。もし彼を国際会議の場で見かけたのなら、彼は全身でこう言ってるの。『君達の文化に敬意を払うが、私の主義主張まで譲る気はない』。どう?かっこいいと思わない?逆に彼がスーツを着こなしているのに足元がサンダルだったらどう思う?完全に勘違いした田舎ものってばれちゃうわ。あなただって一歩間違ったらそうなるかもしれないのよ。コーディネートは適当じゃだめ。ある程度は決まり文句があるの」

「ん〜。そうなのかもな」

「でしょう?服装は適当じゃいけないって分かってくれた?場に合った単語を選んで、それをうまく組み合わせておもしろくすることが必要なの。友達の結婚式なんだから」

「わかったよ。もう少し考えてみるよ。それでいいだろ?」

「あ、重要なこと言い忘れてた。いい文章を作るのに必要なものは何だと思う?」

「センスがあれば十分じゃないのか?」

「それも重要だけど十分じゃない。文章に必要なのはボキャブラリーよ。言葉を知らなければ文章は書けない。同じようにいろんな種類の服がなければ、センスが合ってもおもしろいコーディネートはできないわ」

「そう…だね?」

「でしょう!じゃあボキャブラリーを増やしに行きましょう!実は前から目をつけてる『単語』があるの…」