僕は結構最近まで女の子としゃべれませんでした。
おそらく女の子と普通にしゃべれるようになったのは高校3年生か大学生になってからだと思います。
 僕が女の子と話せなかった理由は簡単です。僕にとって女の子はあまりにもかけ離れた存在だったので怖かったのです。異星人とコンタクトをとっているのと同じ状態です。当然ビビっているので会話もうまく成り立ちません。
 しかし僕は女の子が笑っているのを見るのが非常に好きです。*1なのでなんとかして女の子と会話を成立させたいと考えました。さらに欲を言えば『面白い人』認定されて頻繁に笑いかけてもらえるようになりたいとも考えました。
 ではどうすればよいのか。

 女の子の気持ちを読み取ってその場に合った面白い話をする?

 無理です。そもそも女の子と会話したことがほとんどなかったのです。気持ちを読み取ることはできません。『アルジャバガンナを探して来い』と言われるようなもので、そもそもアルジャバガンナが何か知らない状態では探しようがありません。女の子の気持ちなんてまったくわからない状態では読み取りようがないのです。

 じゃあ、笑える話をたくさんストックして会話のときに披露する?

 それも無理です。女の子と話すときにはとても緊張するのでとても思い出せません。また適切な笑い話を披露できるかも不確実です。

 要するに僕には『記憶力や空気を読む力をまったく必要としない会話術』が必要だったのです。なので
このような会話術を見つけ出そう(あるいは開発しよう)と考えました。

『会話の球筋を読む』ということ

 記憶力や空気読み力を完全に放棄したのでこちらから話すことはほとんどできません。ですので会話において徹底的に聞くことを重視しました。
 会話は二人でするものですがその役割は同じではありません。剣道のように互いに力いっぱい打ち込むような会話もあるでしょうが、僕にはその路線は無理です。ですのでピッチング練習のように自分がキャッチャーになって、ピッチャーに気持ちよく投げ込んでもらえるような感じを目指しました。自分がキャッチャーになればピッチャーのような球が投げられなくてもまったく問題ありません。最低限ピッチャーに届く球が投げられれば良いのです。
 問題はどこに構えればピッチャーの球を取れるかです。『こいつは確実に球が取れるな』と思うからこそピッチャーは気持ちよく投球できるのです。会話の球筋を読んで確実に捕らえることが重要です。
 ではどうすれば球筋を読めるのか。『会話の空気読め』なんてことでは逆戻りです。もっと単純に、もっと機械的に読まなくては僕が使える方法になりません。
 たとえばこんな会話があったとします。相手は初対面の女の子であると考えてください。

女の子『わたしシマリス飼ってるんだ。ちょーかわいいんだよ。ほらこれ見て。すごいかわいいでしょ?(写真を見せてくれる)わたしシマリス大好きだから手帳も『チップとデール』なんだよ。高校のときから使ってるんだ。もうぼろぼろになってきてるんだけどね。あ、そういえば最近すごいかわいい手帳がマルコマルカからでてて買おうか迷ってるんだ。』

この会話はどう返したらいいのでしょうか?話題のフォーカスがあいまいなので正確には読めません。正直な話『ふーん』としか言いようがないです。しかし、それはせっかく投げ込まれた球をキャッチャーが見送ったことになります。球は遠くに転がっておそらく二度と投げてもらえません。
 ここはなんらかの反応をして球を取らなくてはいけません。フォーカスがあいまいな以上正確な反応は無理です。なので機械的に反応します。この反応は3ステップからなります。

ステップ1 感情を表す語句と聞きなれない語句の抜き出し
 まずは話し手の感情を表す語句を抜き出します。今回は『かわいい』が相当します。『キモい』や『微妙』などが聞き取れた場合はそれを選びます。
 次に聞きなれない語句を抜き出します。聞きなれない語句としては『シマリス』が適当だと考えられます。聞きなれない語句はあくまで自分にとって聞きなれないものであれば良いです。なので『チップとデール』でも『マルコマルカ』でもよいです。

ステップ2 感情を表す語句に共感を示す
 今回は『かわいい』に対して共感を示します。『本当だ、すごくかわいいね』などが良いと考えられますが共感を伝えられれば何でもいいです。この共感のステップはキャッチャーがミットを開く行為に相当します。ミットを開かないと絶対に球は取れません。どんな会話でも絶対に『共感』すべきです。たとえ言っていることが論理的に間違っているとしても、話し手の感情には正誤はありません。なので『論理的に同意』はできなくとも『共感』はできるはずです。とにかく感情に共感しましょう。

ステップ3 聞きなれない語句について説明を求める
 今回は『シマリス』について説明を求めます。『いつから飼ってるの?』とか『飼うの難しいんじゃないの?』とかです。『名前は?』などでもいいのですが、これだと一言で会話が終了する可能性もあるのでできれば返答に時間がかかるように漠然とした説明を求めます。

 総合すると返答は『本当だすごくかわいいね。シマリスって飼ってる人を知らないんだけど飼うの難しいんじゃないの?』になります。更なる返答をもらえれば同じ規則を繰り返します。相手に合わせて自分が長く話す必要はありません。自分が長く話すのはキャッチャーがピッチャーに剛速球で返球するようなもので、こっけいでしかありません。

 本当に単純な規則です。しかしこの3ステップを繰り返せば会話は成立します。自分が面白いことをいう必要もないですし、空気を読む必要もありません。それでいて会話の球を受け損ねることはまずありません。気をつける点があるとすれば聞いている最中につまらなさそうなそぶりを見せないことです。
 こんな簡単なことじゃ相手に失礼だろと思われるかもしれませんが、これが僕にできる精一杯だったのです。そしてこの手法で時間稼ぎができるようになって初めて面白いことを言えるような余裕が生まれました。もし会話に困ることがあるようでしたら一度お試しください。
 今回は会話を続ける方法を書きましたので、次回は会話をはじめる方法について書きたいと思います。

*1:この形質に僕はとても感謝しています。女の子の泣き叫ぶ姿が好きという形質を持っている可能性もあったとは思いますが、幸いなことにそんなことにはならなかったのです