安定ヨウ素剤配布はおそらく必要が無い


またしても福島原発ネタです。


フランスの専門家が原発事故の被害を抑えるために"できるだけ広範囲に"安定ヨウ素剤を配布してはどうかと提案しているようです。


http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011040101000223.html


『放射性ヨウ素が漏れている』→『ヨウ素が身体に取り込まれると甲状腺にたまる』→『甲状腺がんの原因になる』→『できるだけ広範囲の人にヨウ素を摂取させて放射性ヨウ素の取り込みを防がなくては』という流れのようです。



たしかにチェルノブイリでは、放射性ヨウ素が原因とみられる小児甲状腺がんの発症率が上昇したことが知られています。



ではこのヨウ素剤配布提案は、妥当でしょうか?



フランスの専門家が言うように"できるだけ広範囲に"安定ヨウ素剤*1を配るべきなのでしょうか?



今回はWHOのサイトに載っていたヨウ素摂取に関する文書
*2を題材に工作をしたいと思います。


ヨウ素摂取が不足がちなヨーロッパ、ヨウ素摂取が過剰な日本


ヨウ素が注目される理由の一つに、ヨウ素が必須栄養素であるということが挙げられると思います。


セシウムストロンチウムプルトニウムは必須栄養素ではありません。そのため他の元素と挙動が似ているために身体に取り込まれることはあっても、積極的に取り込まれることは考えにくいです*3
そのため他の放射線核種よりヨウ素に特別の注意が払われるのだと考えられます。


ではヨウ素摂取状況はフランスと日本で同じなのでしょうか?


WHOによると

In several areas of Africa, Asia, Latin America, and parts of Europe, iodine intake varies from 20 to 80 μg/day. In Canada and the United States and some parts of Europe, the intake is around 500 μg/day.

(訳)
 アフリカ、アジア、ラテンアメリカおよびヨーロッパの一部地域においてヨウ素摂取量は一日あたり20 μgから80 μgの間である。カナダ、アメリカ合衆国およびヨーロッパの一部地域では一日あたり500 μgである。

だそうです。
じゃあどれくらいヨウ素って摂ればいいのでしょうか?教えてWHO先生!

16.4 Recommended intakes for iodine
The daily intake of iodine recommended by the Food and Nutrition Board of the United States National Academy of Sciences in 1989 was 40 μg/day for young infants (0-6 months), 50 μg/day for older infants (7-12 months), 60-100 μg/day for children (1-10 years), and 150 μg/day for adolescents and adults

(訳)16.1 推奨されるヨウ素摂取
   米国科学アカデミーの『食事と栄養に関する委員会』(1989)によると、推奨されるヨウ素摂取量は生後0ヶ月から6ヶ月の新生児で一日あたり40 μg、生後7ヶ月から12ヶ月の乳児で一日あたり50 μg、1歳から10歳の子どもで一日あたり60〜100μg、それ以上の青年や大人は一日あたり150 μgである

だそうです。

比べてみるとアフリカ、アジア、ラテンアメリカおよびヨーロッパの一部地域ではヨウ素が不足しているようです。

もしかしたらここにフランスも含まれるかもしれませんしチェルノブイリもここかもしれません。

なおヨウ素の過剰摂取については

…WHO stated in 1994 that, “Daily iodine intakes of up to
1 mg, i.e. 1000 μg, appear to be entirely safe…”

(訳)1994年にWHOは『日常的に1mg(1000 μg)のヨウ素を摂取しても安全である』と発表した

だそうです。


どうやら以前は一日に1mgを越えるヨウ素摂取は過剰摂取のリスクがあると思われていたようです。

では日本人はどれくらいヨウ素をとっているのでしょうか?

WHOによると

Iodine intakes by the Japanese are typically in the range of 2-3mg/day

(訳)典型的な日本人のヨウ素摂取量は一日あたり2mgから3 mg(2000μgから3000μg)である。

だそうです。
十分以上にヨウ素を摂っていますね。
WHOによると、どうやら日本人は昆布*4のような海草やその海草を食べる魚を食べているため推奨されるヨウ素摂取量の10倍以上のヨウ素を摂取しているようです。

もちろんこれは日本人がただちに不健康ということではありません。
上記の文書中には1日当たり10mgから200mgのヨウ素を摂取しても病的な症状が出ない例を挙げています。

ただ日本人は世界的に見ても十二分にヨウ素を摂取しているとはいえるでしょう。

ヨウ素に関しては、『フランス人と日本人で置かれている状況が違う』ということはいえそうです。

安定ヨウ素剤の摂取とはどのような行為か

資料*5によると

3.安定ヨウ素剤投与による甲状腺への放射性ヨウ素移行の抑制
 甲状腺ホルモンの合成過程は血中のヨウ素の濃度レベルに影響される。血中のヨウ素濃度レベルが通常より異常に高くなると、甲状腺ホルモンの合成が一時的に行われない状態となる。これに伴い、血中から甲状腺へのヨウ素の取り込みが自律的に抑制される。安定ヨウ素剤の投与とは、成人で日常摂取量1日 0.2−1mgに比べて、はるかに大きい100mgレベルの安定ヨウ素(非放射性ヨウ素)を一度に与えることにより、その自律的な取り込み抑制効果を誘起して、放射性ヨウ素甲状腺への到達量を小さくする方法である。

ということだそうです。

ヨウ素を大量投与して甲状腺機能を一時的に抑制するのが目的のようです。
そのため安定ヨウ素剤の効果は長続きしません。

効果は1日持続するだけのようです*6

そのため避難するまでの短時間に用いられる手法です。
ずっと大量のヨウ素を投与し続けると甲状腺機能が低下します。

フランス人じゃないあなたへ(もしくは日本食好きなフランス人の方へ)

もしあなたの日常的なヨウ素摂取が不十分である場合、血中のヨウ素濃度が放射性ヨウ素によって上昇した場合そのヨウ素甲状腺に取り込まれやすそうです。
しかし典型的な日本人はヨウ素が十分に摂られているのでちょっとやそっとヨウ素を摂ってもそれが直ちに取り込まれるとは考えにくいです。

また日常的に過剰な量のヨウ素を摂っている場合、血中から甲状腺ヨウ素が取り込まれにくくなるようです*7


むしろこれ以上のヨウ素の摂取は過剰摂取のリスクを高めると考えられます。伝統的な食生活に配慮して、ヨウ素摂取量を甘めに設定している日本のヨウ素摂取基準でも普通の人は上限近辺なのです*8
よって安定ヨウ素剤が配られないからといって心配する必要は無いと考えられます。


ようは放射線とかは気にせず、気楽にいこうということです。