放射能は半減期が長いほど危険なわけではない

 再三にわたり福島原発ネタです。
 福島原発周辺で原子炉由来と思われるプルトニウムが観測されたようです。
 
 http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011032990141331.html

 この話を聞いた知り合いに『プルトニウム半減期が2万4千年なんだって!ずっと放射能消えないから滅茶苦茶危険じゃないか!』と言われました。
 どうやら、『半減期が長い』→『いつまでも"毒"が消えない』→『危ない』という理屈のようです。今の僕にとってはちょっと違和感を覚える理屈です。でも昔は僕もそう考えていた気がします。
 
 というわけで今回は『放射能半減期が長いことは、危険であることを意味しない』ということの説明文を工作します。

カリウム40のこと

 唐突ですが、あなたの身体は放射能を帯びています。
 あなたの周りにいる人はあなたのせいで被爆しています。
 逆に、周りの人のせいであなたは被爆しています。資料*1によると誰かのそばで寝ると0.05 μSvの放射線を浴びるようです*2


なぜそんなことが起こるのか?


 それはヒトの身体の中には放射性物質が結構大量に取り込まれているからです。 
 体重60 kgの平均的な日本人の体内には、カリウム40で4,000 Bq、炭素14で2,500 Bq、ルビジウム87で500 Bq の放射性物質が取り込まれているようです*3。ほかにもありますが合計でだいたい7,000 Bq 程度の放射能のようです。

 ここで注目したいのは、体内にある放射線源として半分以上を占めるカリウム40です。

なぜならカリウム40は半減期が13億年だからです*4

 さきほどの『半減期が長いほど"毒"が消えなくて危険』という理屈で考えると、半減期13億年のカリウム40は、半減期2万4000年のプルトニウム239*5よりずっと危険だということになります。

 なんだか、海の向こうのミサイルを気にしていたら、庭に不発弾が埋まっていることを指摘されたような気分です。

 でも気にする必要はありません。
 なぜなら半減期の長さは危険であることの証明ではないからです。
 むしろ非常に長い半減期は安全の証明です。

 なぜでしょうか?

 モデルで説明したいと思います。
 

『弾を一発だけ持った兵士』モデル

 放射線放射性物質から無限に出てくるわけではありません。
 放射性物質の原子は、一度放射線を放出すると別の物質に変換されてしまいます*6
 そのため、ある物質の原子が放射線を出せるのは一回だけです。
 さながら『弾を一発だけ持った兵士』の軍隊です。

 兵士(原子)は弾を一発しか持っていないので、撃ってしまえばそれで終わり。*7
 
 これがこの軍隊の特徴です。
 説明のために1000人の軍隊を考えます。
 

 ではこのモデルにおける半減期とは何でしょうか?


 それは半分の兵士が弾を撃つまでの時間です。

 たとえば半減期1日の場合を考えてみましょう。
 これは1日経つ間に500人の兵士が弾を撃つことを意味します。
 そして次の日には250人の兵士が弾を撃ちます。次の日には125人。以下続く。
 大体10日も経てば兵士全員が弾を撃ちつくす計算です。
 弾を撃ち尽くしたら、もう弾は出ません。



 では次に半減期10年の場合を考えてみましょう。
 これは10年で500人の兵士が弾を撃つことを意味します。
 この場合、最初の一日で0.19人が弾を撃つことを意味します。
 10日経っても約2人が弾を撃つだけなので、残り998人は弾をこめた状態で待機しています。
 全員が弾を撃ちつくすまで100年程度かかる計算です。

 
 では自分の街に、この2種類の軍隊が攻めてきた場合どちらが恐ろしいでしょうか?
 

 半減期1日の軍隊が攻めてきた場合、最初の一日で大量の弾が撃たれます。
 短時間で大量の破壊がなされるためかなり危険です。
 一日では味方の軍隊の助けも期待できません。


 それにたいして半減期10年の軍隊が攻めてきた場合、10日経っても2人しか弾を撃ちません。
 そのため破壊量もたいしたことありません。
 それに、大半の敵兵士が弾を撃っていないうちに、味方が助けに来てくれるかもしれません。


 つまり半減期は長いほど、一日あたりに発射される弾の数(放射線量)は少ないということです。


 半減期13億年ともなれば、圧倒的大多数の兵士が弾を撃つ前に人は寿命がきてしまいます*8

以上が『放射能半減期が長いほど危険なわけではない』の説明文です。
ご納得いただけましたでしょうか?

じゃあプルトニウムはどうなの?


 では最後にプルトニウムについて考えてみます。

 プルトニウム239の半減期24,000年は、人間の寿命に比べてあまりにも長い時間です。
 そのため身体にプルトニウムが取り込まれても、そのヒトが生きている間に放射線を出す数は決して多くありません*9
 
 最悪の毒物などといわれるプルトニウムですが、実際の毒性は半数致死量で13mgのようです*10。ふぐ毒であるテトロドトキシンの半数致死量である2−3mg*11にくらべても突出して強い毒とは言えません。


 また、最悪のプルトニウム拡散事件である、長崎への原爆投下についても考えるべきです。
 長崎では6kgものプルトニウムが"人を殺す目的で"、ご丁寧にも上空で大爆発*12を起こすという最悪の方法でばら撒かれました。*13
 多くの方が爆発の熱線と衝撃波で亡くなられました。


 大変な悲劇です。


 しかし放射線による被害は想像よりも少なく、被爆者の子どもに先天性欠損症の目立った増加は見られないことも心に留めておくべきです*14

悪意を持ってばら撒かれた大量のプルトニウムも"奇形"を誘発できなかったのです。


ようは放射線とかは気にせず、気楽にいこうということです。

*1:http://dailynewsagency.com/2011/03/20/radiation-chart/

*2:何時間寝たのかはわかりませんが、どのみちごくごく微量の被爆であるので気にしないで下さい

*3:図で見る環境放射線 P13  http://www.chugenkon.org/?cat=12

*4:1.277×10^9 年 http://www.amazon.co.jp/%E7%90%86%E7%A7%91%E5%B9%B4%E8%A1%A8-%E5%B9%B3%E6%88%9022%E5%B9%B4-%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E7%89%88-%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%A4%A9%E6%96%87%E5%8F%B0/dp/462108190X/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1300803400&sr=8-2

*5:2.411×10^4 年 出典は上と同じ

*6:この別の物質がまた放射性だったりするので面倒ですが、今回は簡略化します。

*7:どの兵士が弾を撃つのかはわかりません。ちなみに1秒当たりに撃たれる弾の数がベクレル(Bq)です。

*8:にもかかわらず体内のカリウム40が4,000Bqも放射能があるのは、身体の中に大量のカリウム40があるからです

*9:もちろん、α線を出すために内部被爆の影響が大きいという性質はあります。しかし放射線の数自体が少ないというのはそれを補って余りあります

*10:P10 http://www.jaea.go.jp/04/ztokai/katsudo/risk/slides/pdf/1_08.pdf

*11:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3

*12:TNT換算で22キロトン規模。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%B3

*13:プルトニウムはいわば火薬ですが、大半のプルトニウムは超臨界にいたらずばら撒かれたと考えられます。

*14:P145 http://www.amazon.co.jp/%E4%BB%8A%E3%81%93%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%80%881%E3%80%89-%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB-%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%83%BC/dp/4903063453