セルライトはどうやったらなくせるの?

 とある筋から『セルライトを除去する方法について調べろ』という指令が出たので、調査をしました。

とはいっても僕は美容に関して素人です。それ以前にセルライトって何?

 google先生に聞いてもエステの広告みたいなものしか出てこないですし、できれば科学的に根拠のある情報が欲しいです。wikipedia:根拠に基づいた医療のように根拠に基づいた美容情報が欲しいです。
 

 というわけでPubMed先生に聞いてみました。
National Center for Biotechnology Information

するとそれっぽいレビューが出てきたので、今回はこれを解説して説明に代えようと考えました。

An evidence-based assessment of treatments for cellulite. - PubMed - NCBI
FindArticles.com | CBSi

その名もずばり『根拠に基づいたセルライト治療の評価』。
出版は2008年なので比較的最近。
いいですね。
では早速、導入部分の全訳から。

(原文)
Cellulite is the characteristic, nonpathologic appearance of dimpled, "cottage cheese-like" skin surface change typically seen in women on the thighs and buttocks. It is also commonly seen on the abdomen, breasts, and arms. Given that the occurrence of cellulite is nearly universal in postpubertal females, it is thought of as a female secondary sex characteristic. (1) Nevertheless, it can be a distressing condition and patients spend billions of dollars on treatments that are largely ineffective. (2) Treatment offerings for cellulite are bountiful, indicating a lack of any definitive treatment.

Cellulite has variably been attributed to structural, circulatory, hormonal, and inflammatory factors, but the path of development is unsettled. (1,3-8) Although there are several purported explanations for the appearance of cellulite, the best evidence supports structural variations in the subcutaneous fat architecture in the setting of hormonal differences between men and women. Given that cellulite is present in the majority of postpubertal women and is rare in men except in cases of androgen deficiency, it is highly likely that hormones play an essential role in the pathogenesis. Moreover, compared with men, women have subcutaneous fat that is less reinforced by connective tissue septa and more prone to herniation, yielding the undulating skin surface that is clinically seen as cellulite. In addition, the dermis in women is thinner than men, allowing these herniations to be more easily visualized.

Surgical options, noninvasive devices, injectables, and topical creams have all been used in the treatment of cellulite, and the majority of these treatments lack evidence and proof of efficacy. In fact, there is little data evaluating most cellulite treatments. This article will review the current literature and data on such cellulite treatments as noninvasive devices, invasive modalities, and other offerings including creams and carboxy therapy (Table 1).

(訳文)
セルライトは、主に女性の太ももや臀部(ときには腹や胸、腕)に見られる、皮膚の表面がくぼんで『カッテージチーズのように』なる状態のことであり、病気ではない。セルライトは思春期以降の女性ほぼすべてに現れるため、女性の第二次性徴の一つであると考えられている。にもかかわらずセルライトは(その見た目から)悩みのタネであり、患者はその治療にあまり効果がないにもかかわらず多額のお金を払っている。セルライト治療の方法はたくさんの種類があり、そのこと自体が『確固たる治療法』の不在を示している。
 セルライトのできる原因は、皮膚の構造、循環、ホルモン、炎症などと密接に関係しているが、セルライトの成長する仕組みについては決着していない。セルライトの出現についてはいくつかの説明が試みられているが、もっとも有力な説は、男女間のホルモンバランスの相違に伴う皮下脂肪構造の違いである。なぜならセルライトは思春期以降の女性の大半やアンドロゲン*1欠損症の男性には見られるのに対して、男性ではまれな症例である。そのためホルモンがセルライトの発症機序に本質的な役割を担っていると考えられる。さらに男性と比べて女性の皮下脂肪組織は、結合組織による強化が少なく、ヘルニア*2を形成しがちであり、その柔らかい皮膚が波打つことでセルライトと呼ばれるようになる。加えて女性は男性に比べて真皮が薄く、ヘルニアの形成がより簡単に目に付いてしまう。
 現在、外科的手術や非侵襲性装置*3、各種注射、"話題のクリーム"などがセルライトの治療に使われているが、これらの治療法の大半は根拠がなく、効果の立証もなされていない。事実、セルライト治療法を評価したデータはわずかしか存在しない。そこで本レビューでは最近のセルライトに関する文献やデータを『非侵襲性装置』、『外科的手法』、クリームや二酸化炭素セラピーのような『その他の手法』に分けて総括したい。

 意外なことにセルライトは女性の第二次性徴の一部であるとする考えがあるみたいです。女性にセルライトができるのは、思春期になると男にひげが生えるのと同じであるって事です。じゃあ別に治療しなくていいんじゃないの?病気じゃないし。
 でも依頼者は気になるようなので話を先に進めます。まあ『美容』自体が脱毛とか痩身とか第二次性徴の否定みたいな部分があるからしょうがないのかもしれません。

 では早速、手法ごとの評価を見ていきましょう。とはいえ今回は依頼のあった非侵襲性装置についてのみ解説します。
 僕の依頼者は外科手術とかに興味はないみたいです。
 もし外科的なセルライト治療について知りたいというニーズがあるようでしたらまた考えます。

※ここからは長いので内容をかいつまんで解説していきたいと思います。原文は上記のリンク先を参照のこと。

非侵襲性装置

ここでは非侵襲的*4な手法である、レーザー、高周波、超音波、そしておなじみのマッサージを評価しています。
 ちなみに一番大規模な研究*5イスラエルのSyneron Medical社製VelaSmooth*6という装置に関する研究みたいです。
 ではマッサージの評価から見ていきましょう。

マッサージ

 どうやらマッサージは『セルライトは血管やリンパが変化することでできる』という"証明されていない"理論に基づき、『じゃあモミモミして滞った血液とかリンパ液とか排出しようぜ!』という考えみたいです。

 では結果はどうか?

 Endermologieという2コのローラーで皮膚の上をコロコロするマッサージ機で12回治療を行ったところ、1.86 mm皮膚が薄くなったそうです。何かが排出された、のかな…?同じ装置を使った他の研究ではこれより悪い結果しか出なかったみたいです。
 またこれとは別の実験もあります。ブタに結構強いマッサージを施すという実験を行ったところ、10回から20回の施術後には皮膚の深部にコラーゲンの蓄積が見られたようです*7。コラーゲンで皮膚がプルプルになればセルライトも消えそうですね。でも残念ながらそうはならず、マッサージしたところも、しなかったところも見た目に違いはなかったそうです。

 う〜ん、マッサージはあまり期待できない?
 でもまあコラーゲン蓄積は促進されるみたいだしよしとするべき?
 動物実験の結果だからヒトに当てはまるか不明だけど…。

 まあ次行ってみましょう。

ライトとレーザー

 ライトやレーザーを当ててセルライトを治そうという話について。この方法は『皮膚に超短パルス光を当ててコラーゲンの蓄積を促す』⇒『その結果、真皮が分厚くなってセルライトが消える』という理論に基づいています。ようは『男みたいに真皮が分厚くて丈夫な皮膚をつくろうぜ。だって男にセルライトってないじゃん!』ということです。

じゃあ実験するとどうなるの?


 まず評価したのはQuadre Q4という装置。585 nmをピークに510 nm〜1200 nmの光を出す装置なのだそうです。
そしてただ光を当てる場合と、retinyl based cream(おそらくビタミンA配合のクリーム)を併用した場合を比べました。
その結果、Quadre Q4とクリームを併用したグループ*8では過半数の人が『50%以上改善した』と言っているそうです。ただこの効果は処置を繰り返すたびに減少していくみたいです。また実験設計としても、コントロール(対照群)がない、患者が治療を受けていることを知っているなど問題があります。あんまりあてにならないデータかもしれません。
 じゃあ、光当てるだけじゃなくてマッサージも組み合わせてみたらどうかという実験もあります。
 Triactive*9という装置で810 nmのダイオードレーザーとマッサージを組み合わせた実験です。16人の女性に12回施術したところ21 %でセルライト改善効果が見られたそうです。ただこれもコントロールが無くデータの信頼性はいまいちです。
 さらに最近では波長1210 nmや1720 nmのレーザーを照射することで選択的に脂肪組織を加熱しようという考えもあるみたいです。ただ、まだこのレーザーに関するデータはないようです*10。脂肪組織を直接加熱と聞くとちょっと怖い気もします。

 なんとなく光やレーザーも望み薄みたいです。
 次行きましょう。

高周波

 高周波を使った治療の狙いは『結合組織や脂肪に高周波を当ててセルライトの見た目を減らそう』ということみたいです。

 じゃあ早速検証しましょう。
 評価したのはVelaSmoothという装置です。上のほうで出てきた装置です。
 実はこの装置、高周波だけではなく、赤外線(700 nm-2000 nm)、吸引、マッサージを組み合わせた装置です。ラーメンで言ったら『全部のせ』みたいで効きそうですね。
 35人の被験者に8回か16回の施術を行ったところ写真での判定*11で平均40 %の改善効果があったようです。ただこの実験も統計的に有意であるかは検証されておらず、組織学的に評価しても施術された人と施術されていない人の間で違いがなかったそうです。またこの効果がどれだけ続くかも検証されていません。う〜ん…。


 ただこのVelaSmoothには別の実験もあります。20人の被験者にVelaSmoothを使用したところ50%で効果が見られたとの事です。ただしこの20人中2人はまったく効果なしで、施術を繰り返すたびに効果は薄れていくようです。
 さらに最近のVelaSmoothをつかった実験では、VelaSmoothを使用すると4週間後に太ももが細くなったそうです*12。ただしすぐに太ももが細くなるわけではなく、8週間後には統計的に有意なほどは細くなってないようです。また肝心の見た目に関しては、50% 未満の改善効果みたいです。さらに悪いことに31 %の被験者ではアザができてしまったそうです。確かに揉んで吸って高周波あててだと内出血もしそうです。
 

 面白い実験としてこのVelaSmoothと先ほど出てきたTriactiveを比較した実験もあります。
 20人の女性を集め、片足にVelaSmooth処置、もう片足にTriactive処置をするということを週二回、6週間行った実験です。
 その結果、VelaSmoothで7 %、Triactiveで25 %の皮膚表面の改善効果が見られたようです。ただこの違いは統計的に有意ではなく、VelaSmooth処置した足のほうはやはりアザができてしまったようです。


…次行ってみましょう。

超音波

のっけから『超音波がセルライト治療に有効かどうか評価するのは時期尚早』だそうです。
UitraShapeという超音波装置に関する実験で、30人の患者に3回の施術を行ったところ、部分的に2.3 cmの脂肪減少が見られた*13というものもあるのですが、セルライトに応用できるかは不明です。


結論

 正直に言ってセルライト治療にすごく効くものは無さそうです。地道にウェイトトレーニングとかで脂肪を落としたほうがいいのではないかなというのが感想です。
 ただ一ついえるのは、本レビューの結論にある以下の部分です。

(原文)
Studies about cellulite treatments are often limited by small patient groups, a lack of a control group, inadequate blinding of investigators, and a failure to test for statistical significance. Thus, the promise of cellulite reduction with any treatment should be regarded as speculation.

(訳文)
セルライト治療に関するデータは、調査した患者の数が少ない、対照群(コントロール)がない、盲検が不十分、統計的に有意でないなどの理由により満足できないものが多い。それゆえに『この治療法なら確実にセルライトをなくします!』といううたい文句は疑ってかかるべきである。

気をつけましょう。
もちろん『このセルライト治療法の根拠はなんですか?』と聞いて満足な答えが返ってきたらそれでいいとも思います。
とはいえ命にかかわることではないので、2012-01-04 - 工作blogみたいに気合の入ったデータは出てこない気がします。

どんなデータで納得するかは自分で決めましょう。

*1:男性ホルモン

*2:ここで言うヘルニアは『ある組織がその組織のあるべき場所にない』ということ。例:椎間板ヘルニア⇒椎間板があるべき場所である背骨と背骨の間から飛び出してしまった状態のこと。

*3:もったいつけた言い方ですが、外科的に傷をつけないセルライト治療法の道具をこう呼んでいます。美容グッズコーナーにある『柔らかいトゲトゲのついたローラー』なんかもここの分類です。たぶん。

*4:外科的手法ではない

*5:といっても普通の疫学的研究の規模から考えるとすごく小さい

*6:ベラスムースって読むんでしょうか。google検索すると日本でも使われているみたいです

*7:うれしいことに『なんとなく蓄積した?』という感じではなく、ちゃんと統計的に有意だそうです。

*8:被験者総数20人。Quadre Q4処置のみは8人。Quadre Q4+クリーム処置は12人。ただし途中でやめちゃった人が5人

*9:トリアクティブって読むんでしょうか?それともトライアクティブ?

*10:2008年現在

*11:被験者自身が効果を報告するのではなく、別の人が写真で判定したようです。

*12:統計的に有意

*13:統計的に有意。ただし患者は実験期間中体重を維持していた。