ゲーム
もう終わらせよう。
こんな人生は生きている意味などないだろう。
特に不満があるわけじゃない。
借金? 失恋? 死別?
別にそんなドラマチックな理由があるわけじゃない。
ただ、そう、漠然とした不安。それだけ。
偉いヒトがこういった。
『死して不朽の見込みあればいつでも死ぬべし。生きて大業の見込みあればいつでも生きるべし』
ではどちらの見込みもない場合はどうしたらいいのだろう?
はやめに店じまいしてしまうのが得策ではないだろうか?
まあいいや。考えるのも面倒くさい。終わらせよう。
僕は首を縄に通して椅子を蹴った。
身体が宙に浮く。足先のしびれる感じ。そして闇。
『どうよ?なかなかよかっただろ?』
唐突な声で意識が戻った。
『まあまあかな』
僕はヘッドマウントディスプレイを取りながら隣に座る友人に応えた。
新しく発売されたゲーム。
脳に直接作用し感覚のすべてを仮想空間と結ぶ。
おまけにゲーム開始時の記憶は一時的にアクセス不可能になるため、ゲーム中は本当に自分がゲームキャラクターになった実感を得られる。
『どうだい?僕の得点は?』
『最初にしちゃまあまあなんじゃないの?早めに終わったのがかよかったかも。しかしよく早上がりの裏技思いついたな』
このゲームの得点は『快楽指数』で決定される。
快楽を感じると得点はプラスされ、不快感を感じるとマイナスされる。快感の大きさかける感じた時間が総得点だ。
より長い人生をより快適に過ごすのがもっとも高得点だが、不快な状態で長い人生を過ごすと得点は上がらない。むしろ短い人生のほうが高得点になる場合もある。
『攻略法思いつかなかったから、おれは麻薬ってやつに手を出したよ。見ろよ、この瞬間快楽指数の高さ。まあ体が持たなくて長くは続かなかったけどな』
友人はサブディスプレイを指差す。
『お前らしくていいよ』
こいつにはいつもそういうところがある。短期決戦というか、花火型というか。
『じゃあもう一回やろう。やっぱり二足歩行の生き物なんて操作しにくいよ。やっぱり六本足がないとしっくりこない』
『どうせゲーム中に記憶はないだろ』
『まあそうなんだけどな』
少し笑って、二人は三つある頭のすべてにマウントディスプレイを載せた。