『海』
やった。ついにやったんだ。
オレはついに抜け出したんだあの狭苦しい地獄を。
きっとあのよくわからない衝撃がオレをあの地獄から外へ連れ出したに違いない。
仲間がいつか言っていた。
『おまえ海って知ってるか?どこまでも泳いでいける広大な水の楽園がこの世のどこかにあるんだ。そこはとても透き通っている。でも広すぎてどこまで見渡しても仲間の姿すら見えない。そんな自由の楽園があるんだよ』
でもそのときオレはそんな戯れ言を信じなかった。だって目の前にあるのは汚れた水、ごった返すほどの仲間の姿。とてもそんなものがあるとは信じられない。少し泳げばたちまち仲間のからだにぶちあたる、そんな世界しかオレは見たことがない。
でもこの現実はどうだ?
あいつが言ってた通りじゃないか。
限りなく透明な水があたりに満ちている。でもどこにも仲間の姿は見えない。
少し尾びれに力を入れてみた。ひれが水をとらえ身体がぐんぐん前に進む。
泳げる。どこまでも・・・
そう!どこまでも!
どこまでいっても立ちはだかる暗い壁がここにはない。いつもオレの行方を阻んだあの壁がない。
さらに泳ぐ。まだだ、まだ泳ぎ続けられる。
尾びれに力がみなぎり、身体は加速する.
もうどこまで来ただろう。本当にここには限りがない。自由だ。どこまでも泳いでいける。
やっぱりそうだ。オレは海に来たんだ。間違いない。あいつが言ってたことは本当だったんだ。ああ、海とはなんと素敵だろう!これからどうしようか。この自由の楽園で。
ひとまずもう少し先まで泳ごう。自由を味わうんだ。
『ママ〜、昨日のお祭りで僕がすくった金魚さんすごくうれしそうだよ』
『あらあらホント。同じところを何度も泳いで元気いっぱいね。一緒に買ってよかったわこの金魚鉢』